恢復期 岡野絵里子


恢復期   岡野絵里子

 春のあいだ 私は考えていた 胸の底に眠る 砂に似た生き物に
ついて その静かな目覚めについて
 
 三月 家々は傾き 噴き上げてきた泥と砂に埋もれた 東では 
夥しい死者たちを抱いて人々が泣き 僅かな水を分け合っていて―
 
 人の重みで地が傾く 悲しみを乗せて 地が沈む 砂は人の外と
内を埋め 無情な門番のように世界を閉じた
 
 壊れた街から 私は重い鞄を引いて仕事に通った 小綺麗な都会
の通りに 車輪で泥の跡をつけながら
 
 朝ごとに 私たちは砕かれ そしてまた満たされる 焼きたての
パンと共に 鮮やかに切り分けられる私たちの日
 
 少しずつ 私たちは恢復していくだろう まだ目覚めない者の夢
聴こえない声よ だが 陽がとまる 新しい私たちの日に 気がつ
けば 夏になっている

タグ:

      
                  

「作品 2011年7月22日号」の記事

  

Leave a Reply



© 2009 詩客 SHIKAKU – 詩歌梁山泊 ~ 三詩型交流企画 公式サイト. All Rights Reserved.

This blog is powered by Wordpress