夜の虹 澤 好摩
揺椅子と舟と揺れあふ夜の霧
篝火の上の梢に蜘蛛の糸
水に泛き奔る水玉冬隣り
宵闇に石蕗は花莖揃へたる
竹林に雪折れの竹華燭の典
土佐の限界集落の一つ
降る雪の西峰影といふ処
堵列して幸はありなむ雪の街
鶴を見ず汚るる雪をきのふけふ
白菜を鳴かせて括る安息日
倒木の倒れてのちを月に暈
鴨の浮く水辺に眉を引く女
まほろばに夜の虹顕つ冬山椒
予と言へば三橋敏雄冬の濤
子の空想泡と消えたり焼むすび
保温せしままのご飯の去年今年
なせば成るなどとは寶舟の皺
一月の雲のあかるさ正座せむ
雪を被て橋の
初淺間男のみぢかき
左義長の盛りを離れ際とせり
作者紹介
- 澤好摩(さわ・こうま)
昭和一九年、東京生まれ。大学で俳句を始め、以後、「日時計」「天敵」「俳句評論」「未定」等の同人誌を経て、現在、同人誌「円錐」の編集を担当。句集に『最後の走者』『印象』『風影』『澤好摩句集』など。