晴天の貝 水野るり子
晴天の冬の日
街は潮の匂いがする
濡れた貝の身をふくろに詰めて
西からはるばると帰ってくるものがある
路上にくらい陽炎がたっている
まだ夜があけないまま
わたしは半ば目を閉じて
夢の来し方を追いかけている
濡れた砂が足もとを浸し
いもうとの声がどこかで低く笑っている
大気ははらはら光り
羽虫たちがみだれ飛ぶ
見知らぬ旅びとの一列が
笛を吹きながら
耳もとを往ったり来たりする
コーダの部分から
巻貝がこぼれ落ちて
つぶやくように足もとに溜まっていく
(これから どうしたらいい?)
翳りはじめた砂のくぼみに
おおきな二枚貝が
なみだのような目をあけている
その付近を ただしんしんと
通りぬけていくものがある