戦後俳句を読む(19 – 3)三橋敏雄の句【テーマ:『眞神』を誤読する】③ / 北川美美

③ 鐵を食ふ鐵バクテリア鐵の中

五七五のそれぞれの先頭に「鉄」を配したリフレイン。『眞神』の冒頭三句は多くのファンの脳裏に焼き付いているようだ。

鉄を食ふ
鉄バクテリア
鉄の中

改行してみるとまさにマザーグースのような詩である。俳句は詩であると翻弄した新興俳句、のちの高柳重信が取り組んだ多行形式が重なり合う。敏雄は前衛とも古典とも区別のつかない境界を越えた唯一の俳句を求め『眞神』に集中させていったと思えてならない。

人類にとって最も利用価値のある金属元素の「鉄」を浸食するバクテリアが鉄自身の中にあるという、まずは破滅的示唆と読める。鉄バクテリアとは土壌微生物の一種で用水路口などでドロドロとして褐色の粘液を作りだす。航空機などの損傷に鉄バクテリアが影響しているようだ。

詩・短歌・俳句の三位一体が最晩年までつづいていた吉岡実の『マクロコスモス』に於ける65行目「粘菌性のマクロコスモス」から最終70行目「不条理な鉄の処女を感じる」にかけてのクライマックスが、上掲句と根っこがどうも似ているように読める。同じ戦中派の吉岡実と親交を深めたことも納得できる。*1)

リズム感あるリフレインに隠れ、「バクテリア」という目にはみえない生物への想像がふくらみ、鉄がぐるぐると円を描きながら地核に潜り込むような神秘性をこの句に感じる。「鉄」は46億年前に地球を形成した元素でもある。生命・宇宙へと想像はひろがる。転換の三句目として、なるほどと思う。


*1)―「マクロコスモス 吉岡実」抜粋―
粘菌性のマクロコスモス
千紫万紅の高千穂の峯をふりかえり
鳥肌の世界を反省する
棒高跳選手
バーを越えるとき
不条理な鉄の処女を感じる

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