日めくり詩歌 俳句 高山れおな

十二番 へそ

左勝

常よりも右に臍ある油照 川上弘美

臍の位置少しずらせば美妓なりき 筑紫磐井


右句の作者は、元は狂歌師で、遊俳としても一家をなした。身分は、幕府の御家人だったとも、蔵前の札差だったとも言われるものの、詳しい伝記は不詳。よく知られているのは、サングラスで身元を隠し、吉原で遊んでは女たちに発句を詠みかけ、嫌がられていたというエピソードである。

墨水に妓と游ばむか芋名月
遊君いうくんの蚊遣で遊ぶあはれかな
花魁が雄蝶・雌蝶の舞ごころ

などの句が伝えられている。また、

春月のぽん太落籍かるる別れかな

とも作っており、右句に詠まれた妓女はこの「ぽん太」だとする説もある。しかし、本当のところこの作者は「ぽん太」のような名妓には相手にされておらず、右句は、あの葡萄は酸っぱいに違いない、の類である可能性が高いとされる。ただし、別伝によれば作者は妖術にも堪能で、実際に臍の位置をずらすことが出来たともいう。

ひたすらふざけている右句に対して、左句は「油照」の体感を奇想によって捉えた佳句である。こうして組合わせると、右句の作者の妖術で臍をずらされたかのようだが、もちろんそんなことはない。妖術遣いに肩入れする謂われはないので、右負けて侍れかし。

季語 左=油照(夏)/右=無季

作者紹介

  • 川上弘美(かわかみ・ひろみ)

 小説家。著書に『蛇を踏む』『溺レる』『センセイの鞄』『真鶴』など。俳人としては、「澤」に所属する。掲句は、第一句集『機嫌のいい犬』(二〇一〇年 集英社)所収。

  • 筑紫磐井(つくし・ばんせい)

 掲句は、第三句集『花鳥諷詠』所収。ただし、同書は単行本ではなく『セレクション俳人12 筑紫磐井集』(二〇〇三年 邑書林)に未刊句集形式で収録されている。

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