バージニア・エス・ノアール・メンソール    鈴木美紀子

  • 投稿日:2020年05月09日
  • カテゴリー:短歌

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バージニア・エス・ノアール・メンソール    鈴木 美紀子

眼には見えざる雨が花束を包んだセロファンだけを濡らせり
花という両性具有のやさしさで散らしてしまうくちびるの色
玻璃窓は空に吊るされきらきらとひるがえるたび風を映して
「木蓮」とつぶやくわれは「ん」の音の刹那に白く息を止めたり
骨の透くビニール傘へ降りそそぎ夕べのあなたと刺し違えたし  
川底の真砂をかすかにふるわせる水面をひらく雷のひかりよ
横たわる影がしずかにしかばねという片羽をひろげておりぬ
精密なつばさと思うにんげんをあいしてしまったラブドールなら
濃密な睫毛のフェイク 覗き込む水晶体にはシリアルナンバー
うしろからふさがれるときおそらくは手のひら越しの月を見ており
火を貸して。バージニア・エス・ノアール・メンソール香らせるごと くちづけるごと
十指でもまだ足りなくて黒髪を束ねるために咥えてるゴム
ほろほろとほほえみほどくあじさいの頰のしずくの藍はまやかし

鈴木美紀子(すずき・みきこ)
1963年生まれ。東京出身。未来短歌会所属。「まろにゑ」同人。
2017年3月、書肆侃侃房から第一歌集『風のアンダースタディ』を出版。
Twitter:@smiki19631

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