インターフォンにありんこがいる(抄)
岡崎京子展によせた連作より 穂村 弘
長い夢から覚めたら世界がなんか変 タクシーの基本料金がちがう
タクシーの中で苺のショートケーキ頬張りながら夜を突き進む
パパとママにおやすみなさいの挨拶を両手を着いてした夜がある
向日葵の顔が揺れてる八月のインターフォンにありんこがいる
「初めてのナイフはあたしを天使だと思い込んでる人にもらった」
ヘンゼルとグレーテルとが別々の森で震えているような夜
「商社ってシステムでかいから一度海老に決まると一生海老だ」
真っ青な目に僕たちを入れたまま台風はゆっくりとウインク
「目玉焼き、かたさどのくらい?」と問いかける誰かの声が永遠になる
いないはずの猫が私をじっとみる不思議なものをみつめる瞳
『岡崎京子 戦場のガールズ・ライフ』(平凡社)より