星 辻 征夫
空地に
錆びた鉄管が
積んであって
菫を摘む
子供は
こっちにきては
いけない
あぶないから
と
かんがえて
いたのであった
星も
まだ出てきては
いけない
うつむいて
ぼくと同じ月収の
誘拐犯
きみのことを
かんがえて
いると
足もとに
なんだかわからな
い機械の 破片が
捨てられて
いるのであった
空地の
草と共棲する
錆びた 針金が
めったやたらに
からみついて
まるで驚愕と
いう字みたいな
かんじになって
しんとしている
詩集『落日』より
作中主体「ぼく」は、「大人になってしまった子供」。「子供は/こっちにきては/いけない/あぶないから」というからには、「ぼく」は大人なのだ。しかし、空地に侵入し、菫を摘みたくなる子供の気持ちをよく分かっているのは、大人の「ぼく」の心には、子供の「ぼく」がまだ潜んでいるからだ。
そんなナイーブな「ぼく」だからこそ、続く第二連・第三連が生きてくる。足もとの機械の破片と、草むらの錆びた針金は、「ぼく」の分身のようなものと解釈していいだろう。子供の心を持ったまま、どこか中途半端に大人になってしまった人は、子供にも戻れず、かといって成熟した大人にもなれない。「星」を純真に見上げるのは子供だが、「ぼく」はうつむくしかできない。だからもう、空地で草と「めったやたらに/からみついて」、わけわからない「驚愕」みたいな状態になってしまい、うつむきかげんで泣きそうになりながら照れ笑いをしているような、複雑な心情が伝わってくるのだ。