ヌーブラの半透明の曖昧を捨てて君へと今宵ふみだす 有沢 螢
「短歌人」2008年8月号に掲載された作品。一読ドキッとしてしまった歌だ。男の読者にはビミョーなところがよくわからないが、「君」と逢う夜はノーブラでいいよ、という決心がつかずに着けるヌーブラは、“曖昧な気持ち”をあらわすアイテムなのだろうか。作者はその曖昧を脱ぎ捨てる場面を歌う。もし自分が「君」の立場だったとして、想うひとにこんな歌を詠まれたら、当分の間ボーッとしてしまいそうだ。この歌のテイストを決定づけているのは、結句の「ふみだす」である。何と潔い能動であろう。エロスの歌というよりは、恋する女の激しい〈意志〉に圧倒されそうな一首である。
作者紹介
- 有沢 螢(ありさわ ほたる)
「短歌人」同人。歌集『致死量の芥子』『朱を奪ふ』『ありすの杜へ』