吊(つり)革を握りうたた寝してる間(ま)にこの世の駅をみな通過せり 鈴木博行
朝日新聞埼玉版の歌壇(2011年1月28日)に掲載された作品。選者の沖ななもさんは選評で「仕事一筋の生活をしている間に、降りるべきだったかもしれない駅を通過してしまった。大事なことを見逃していたのではないか」というふうに書かれていたが、「この世」という語に導かれて、さらに大きな射程の暗喩の歌としても読めるのではないだろうか。死にゆく時に、ああ・・・・、と後悔している歌、人生というものを31音にした歌、というふうにも僕は思ったのだった。こんなことにならないように、日々最善を尽くして一生懸命に生きてゆきましょう、というのが良い子の作文の模範例であるが、僕などはもうとっくに良い子の作文も書けなくなってしまった。