革命前夜   伊武トーマ


革命前夜   伊武トーマ

繊細なくせに大胆な犬が
風上へ向かって
水溜りを駆けて行った。
 
無垢な血の臭いを嗅ぎとった犬は
ぴんと尻尾を立て
泥を跳ね上げ
全速力で駆けて行った。
 
夥しく重なる分厚い雲の下
少年は歩いていた。
 
ひとり、傘もなく
少年は
冷たい雨に打たれ歩いていた。
 
犬は
気分次第で殴る、蹴る、
飼い主に牙を剥き
自らリードを噛みちぎった。
 
少年は
暴れる父から逃れ
見て見ぬふりする母に背を向け
足音を立てぬよう、そっと
靴も履かず家を出た。
 
人間の言葉を話せぬ犬は
身を切る風にさらされるまま
狂犬とよばれ
 
人間の言葉を失った少年は
冷たい雨に打たれるまま
我が名を水に流した。
 
メロスは
ついに走り出すこともなく
ふたたび
殺し合いを始めた世界を覆う分厚い雲の下
 
狂犬とよばれる犬と
裸足の少年は出会った。
 
  立ち止り
  みつめ合う
  傷ついた魂よ…
 
悪魔のように繊細に
身を切る風を潜り抜け
天使のように大胆に
冷たい雨を振り切り
 
少年と犬は
挑み続ける旅に出た。

(二〇一二年一月一七日:シリウスの誕生日に)

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