精霊ビブラート 来住野恵子
いい
そろそろ
うたいはじめるから
まもなくきえてしまう天国の階段
だれもふれない手摺りの曲線をすべり
ソプラノへ朽ちる
くらい夜明けが近づいて
錆噴く
血の滴抱く土のにおい
星が十字を組んだらしずかにくずれてゆける
零の岸辺は終わらず
見たいものはいつも見えない
それでも発現する
精霊ビブラート
どんなに遠くてもやってくる
川床のねじれたじかんから身をはがし
死ぬのはおまえ
ましろい罪の焔にいくたび生まれ変わってきた
わたくしの謂を切りおとすビブラート
ほろほろまぼろしの吹きこぼれる防波堤からおちる
まっさかさまにそらへおちる
ほら
手を離せば
よるべないかみさまのわらいばなし
ふりしきる
うたいはじめる
あのうつくしい唇のうごきをまねて
なだれうつ冬の魔法が解けたら
生きるのはおまえだ