天井譚 森川雅美
今日はまだ死んでない僕たちの、
目の裏側はおもくなるから、
まぶしく明滅するいくつもの欠片、
降りしきる雨にさらされつつ、
睾丸に沁みこみ続けるウィルスの、
一雫のなき声の狭間をつたい、
地にとどくものは地にとどけ、
遠くに流れ着くままうちあげられ、
すでに変わってしまった面影を、
誰かのこわれた背骨をかくす指の、
さし示す方角に少しずれていく、
はや誰とも手なんかはあわさない、
いったまま伸ばしただけで動き、
崩れたら死ねるのかと嘘ぶき、
まだ死ぬことのできない僕たちの、
喉元からゆっくりほど走る、
関東平野のおく所からさらに奥、
股間の雨にさらされつつ、
平たく腐敗し続ける睾丸は転がり、
やや遠ざかる人の笑みを浮かべ、
地にとどくものは地にとどけ、
よわまる脈拍を掌の内につつみ、
繰りかえす一瞬一瞬のつらなりへ、
傷ついた手足のまま通り過ぎ、
内側から乾きいく日日にたたずみ、
意思もなく知られずに更新され、
はぜるであろう筋肉の裏側を、
ひらひらと死ねるのかと笑いあい、
もう死に顔もさらせない僕たちの、
高速で滑り落ちていく光だから、
くらむならば目も小さな点、
内臓すら濡らす雨にさらされつつ、
裏がえる睾丸のひりつく痛みに、
さらに奥深く追われいく足たちの、
地にとどくものは地にとどけ、
つねならぬ風音が内耳に吹き、
境域の狭間へと迷い込む、
日は傾きながらもまだ没せず、
うすれいく皮膜に響く山の端に、
聞き耳を立てるさらなる明るみの、
重なる息継ぎが聞きとれぬまま、
もう死ねるのかとざわめいて、