星がない(夜 渡辺玄英
手のひらの中で星がはじける
なんだか終ってしまった
静寂の街は迷路から抜け出せない
セカイの向うから風が吹いてくる
ひと気のない夜の児童公園に街灯がひとつ
顔のない子供と背中のない人が
洋凧をあげている(ように みえる
けれど(暗い空から 糸でつられている
ことを ぼくは知っている(はずだけど(しらない
吊り人形はかたかたと
闇の奥へ遠ざかる
夜空を見上げながら
そういえば 星がない
(手のひらを見ている
三枚の硬貨を自販機におとして
(セカイがすこし傾く
星のかけらを買おうと思う(おもわないけど思う
知らないのに 知っている(はずの
しらないぼくが持っていた(はずの
道端や物陰にはいくつもの
選ばれなかった未来が息をひそめている
次の角をどちらに曲がると正しいのか(わからない
暗い空のようなココロの空の
星がひとつも見えない
この夜空の色は
見たことがある(ないかもしれない
いつだったか糸の切れた気分で
雨の
喫茶店で珈琲をスプーンでゆっくりかき混ぜながら
窓の外を眺めていた
無数の車や傘の人がやはりかたかたと流れていく
これは失くしたキオクかも
しれない
暗い空から細い糸が無数にのびている
ヒトではなかったと思いだしたりする