春夜 岡田ユアン
おぼれてしまわないかしら
まといつく春は ぬるく
かきわけても どこまでもぬるく
皮ふをおかして すすみゆく
愛しているのは
さくら色がとけだした
うす紫のすげない夜
川面を風がわたると
しだれるように言葉がこぼれる
銀の光をひろいながら
わずかな窪みをもとめて
気配をまつものの肩ごしに
はこばれてゆく
ようやくうまれた均衡に
触れてはいけない
ゆるみはじめた細胞が
いらなくなった思い出を手放す季節が
あえかに過ぎてゆくまで
触れてはいけない