(Venezia-01) 来住野 恵子
もうじき鏡の水位があがる、
握りしめたその手を放しなさい―――
わたくしと名乗るものが私に言った。
記憶の指先から零れてゆく虹の波紋。
香り立つみどりの風。
あらゆる命の水辺を彩る夢幻の日没さながら
なにもどこにもとどまらぬことの峻厳な耀きよ。
とほうもない悲しみさえも永遠に所有することはできない。
わたくしと名乗るものが私に言う。
喪の天窓でありなさい―――
さいはての青を生きなさい―――
光が息を継ぐ。
ひらかれたそらの手の寂滅のままに。