走高跳 ―――ハビエル・ソトマヨルに 来住野 恵子
拮抗する脳天の焔を越え
宙の扉をあけてゆく
息をすべて吐き出せば
腹のそこからふつふつ湧いてくる
あのえもいえぬリズムになる
・・・わずか数秒の気の遠くなるような助走の果て
タン・タン・タ・ターン
バーの斜め前
速度を上げ
Jの字の曲線を描きながら瞬時のダンス
慣れ親しんだ重力と決別するんだ
生命の信託
力いっぱい踏みきり
全存在を挙げて神の手をもとめるように
天高く右手を投げ
真後ろから跳躍する
おお麗しき背面跳びの王者!
一本の幻を超え絶対の地平へ
天地はまわり
両足を空に蹴り上げいま世界を脱ぎ捨てる
ほしいものなどなにもない
完全降伏した地は雲の匂い
跳ぶものは飛ぶものだ