音の羽 @140428 萩原健次郎
吐き出された、枯葉
吐瀉された桜花
樹脂の管を通って
もう、死んだ、色は、闇の洞から
外に出た。
景色の蘇生とは、このように突如として始まり、それ
から、平板な景として瞬時定着するだけで、また、一
景に翻って、もう一度
誰かの、眼の中で死ぬ。
備忘ならば、それでいい。
記録でもいい。
ちゃらちゃら紅に、憂鬱な緑陰に、
べったりと伏して
唄ならば、横向きに唄い
吹き出しの
ららららみたいな、文字を嵌められて
そこでも瞬いていればそれで済む。
掃けよ
竹箒、もっと乱暴に押しやれよ、熊手と
考えていても、吹き出しの、ららららは、もう
摺られた液も凝固して、照らされていらあ
●
昭和十二年と言ったか、
十五年と言ったか、
この川の上から、紙片が流れてきて
私は、通知された。
四月二十三日と、書かれていたか
溢血と、記されたか
昔のことだ。
私は、通告された。
●
溝に掃かれ
排水溝の穴を通って
枯葉の裔であっても本望ではないか。
社の脇の石柱には、
明治二十三年、
行幸、
移築、
朽
腕
血栓
裂傷
とか、見えても、
それは、生きた人が書いた文字の筆跡ではなかった。
(「音の羽」連作のうち)