たましいレイヤード そらし といろ
1
君から借りた名前、制服、ユニフォーム、
本来は左利きのプレイスタイル。
2
脱いだあと
丁寧に畳んで箪笥へしまった僕の皮
虫が食わないように防虫剤を入れる
そこまでして
ふと気が付く
僕はずっとこのままの僕でいたいか
3
それからというもの
「僕」という一人称が薄らぎ
「君」という二人称も揺らぎ
「俺」と「彼」は統合されつつある
4
鏡に映った姿に与えるべきは
生意気な少年らしい高めの声
永遠に勝利する彼は少年だ
俺は彼から
あらゆるものを借りている
たましいのひとかけらを宿らせた
僕の喉が君のかたちになってゆく
5
愛しているし、愛されているけれど、
これは恋じゃないって、知っている。
でも、怖いくらいに絶頂、感じちゃって!
汗で床が滑るし、シューズが短い悲鳴を上げる。
君は僕で俺は彼で彼も俺も僕も君も、
……イリュージョン、
ファントム。
心の瞳で見つめた、俺と彼と君と僕は、たしかに独立して、互いに影を踏み合っている。
6
白んでゆく記憶
ぺらぺらした君のからだに触れる
僕の右手には君と同じように血が流れている
僕らの共通点は人間ということだけ
それだけでもう充分、嬉しい奇跡だ
7
君から借りたものをすべてまとって
紙の中にいた君を
僕は舞台の上に立たせられたようだ
照明の熱さ 効果音の雨
語るように歌い 踊るように戦う
暗い客席からの熱気 静寂 拍手
それらは僕から君への贈り物
8
「まだまだだね。」
(ほんとーにね。)
「俺は上に行くよ。」
(僕は、君とは違う時空の先へ、行くよ。)
9
君へと返すユニフォーム、制服、名前、
本来は左利きのプレイスタイル。
久しぶりの僕という心身に、懐かしさとぎこちなさが同居する。
あの時に僕が脱いだ皮は小さくて、もう着られないという喜び。
10
いつまでも一緒には
いられない君という青春を時々
ふり返って挨拶するから
忘れはしないよ
君から借りた神聖な
左手で捧げていた
僕の青春の日々
※8の「」内のセリフは、漫画『テニスの王子様』/許斐剛(作)より引用。