こないね 山腰亮介
こないね
夏の遺骸にところどころで睨まれて
姿をみせない金木犀がフードを引っぱる
昨夜は名指せないものがちらばって
僕もその一滴だった。
朝の雨はなかなか起きれない。
台所
フライパンをひっくり返した星空で
お箸を持つようにクレヨンを持てば
描いた月もつまんで口に運べる
さあ ふらひらとわろ
スカートの襞になって空をひらくから
ケチャップほどにあまい唇の歌になろう。
浴室
明かりとりからなだれる朝の
飛沫を受胎した肌理での
眸のなめらかな反響。
髪をさんぽしていたアルパカの涙は
排水溝を下ってうたたねしている。
内耳
まっしろなタオルが夕暮れに包まれて
内耳で もこもこと空気を食べながら
巣箱から顔を出す小鳥たちの
ゆるやかな温度がふるえている。
ねむりにつく前
プッシュ通知を切ることができなくて
毛布のはじで点滅している
森や空に脅えたうさぎをすくって
もういちど
落ち葉を拾うことからはじめる。