うた 相沢正一郎
鳥は、翡翠、鷭、鶺鴒、五位鷺、草鷸、蒼鷺――ねむ
れないときには、鳥の名をおもいうかべるのもいい。
いつのまにか水音がたかまるにつれ、あなたは川。こ
とばの川。あなたのまわりで鳥たちも透きとおって―
―かいつぶり、とび、いそしぎ、こちどり、まがも…
…キッ、キッ、キッ。ケレ、ケレ、ケレ、ケレレレレ
レ。ピッピッ。ピピピピピ、ツィー。
雲はいわしぐも、きぬぐも、かなとこぐも、しぐれぐ
も――日付のあと〈晴れ〉と几帳面に記す。……雲が
ひろがっていた、あなたが〈歯が痛い〉と書いたとき
も、〈何もなし〉と書いたときも、〈庭の片隅にコス
モスの花が咲いた〉と書いたときも。そういえば、雲
はもう、四十六億年もまえから描かれてきたな。ひつ
じぐも、うろこぐも、ひこうきぐも……窓の外を流れ
ている雲と、その日、あなたが書いた出来事と、いっ
たいどんな関係があるのか。いま、あなたの膝のうえ
から猫が飛び降り、窓から出て行った。
魚は、サケ、スズキ、ボラ、コイ、フナ、ニジマス、
イワナ、ヤマメ、ワカサギ、アユ、ウグイ、カジカ…
…ねむるまえに魚の名前をおもいだしているうちに、
いつのまにか枕もとから川は退いていて。朝になると
水音は消え、鱗が光っている。よく見ると、カーテン
の留金から零れ落ちた光だったり、庭に落ちているガ
ラスの欠片だったり。でも、さっきから水溜まりに置
いてきぼりされた魚が、ときどき思い出したように水
を跳ねる音……。
(連作のうち)