からし菜坂、のぼる そらし といろ
1
「永遠の別荘だな。」
彼は静かに笑んで
そこにはまだない
なにかを見つけて
まぶしそうだった
2
「ダンスしにいきませんか。」
「駅で待ち合わせましょうか。」
「改札の中で待っていました。」
「改札の外で待っていたのよ。」
「もっとお互いを知るためにダンスしましょう。」
3
「あの砂山にはルビーが埋まっている。」
そんなホラを吹きながら
拾ってきたギターを爪弾いていた
あの男のそういう時代は
ここから何世紀前までさかのぼればいい?
4
音楽と楽器を愛する遺伝子を受け継いだ
けれどここで途絶えさせてしまう予感に
遺伝子情報を組み込んだ詩を書いている
5
「きっとフィリピンまで飛んでいく。」
糸が切れた凧を見送る言葉から
ドライマンゴーのむせる甘さを
匂わせて会いたい人を思い出していた/横顔
6
小さなじゃがいも畑であなたの記憶を耕す
7
言葉が削られてシンプルになってゆく会話
背中の形にくぼんだ壁へ時間を蓄えていた
それなりにおだやかでうらやましい、晩年
8
人生最後の晴れ舞台
オーケストラの演奏は風属性、涙も嗚咽も乾かして去っていった
9
失いゆく現実へ繋がったのは、半分ほどの夢。
「そういえばあの人、どうしているのかしら。」
(「永遠の別荘の中にいます。」)
別荘の外側で、踊るように手を振っている人。
あの人は応えるように、小ぬか雨を降らせる。
10
磨かれた石に
補正をかけて眺めても
間取りの想像は難しい
でも、なんとなく、同じ屋根の下に馬がいると思う
いつかは引っ越す
そこへ持っていく
荷物について
考えている今
からし菜を摘んだ
指先は黄色をこぼして
明るい坂道がおりてくる