蝶番 そらし といろ
1
扉の 門の
鍵を 開けて
閉める 音に
切断された
言葉の破片へメモを書き残す 毎朝のこと
2
(白い蝶がまぶたを結ぶ
シシ神の
アポカリプス」
眼球が夢中でなぞり
のど越しを味わった
詩集の詩人の行方を想う、午前十時の休憩。
3
すり減ったクレヨンを握る
黄緑色によごれた指先の
その
小さな野原へ寝ころぶ
君のまつげを整えてピンを打つ
4
鹿の角は
水晶の透明度をもって
光を吸っては吐きだしている
そうして
雷鳴は低くこちらへ近づく
5
それは三十一文字ではなかった
サイドエフェクトでもなかった
解放区に僕は立ち入れなかった
6
食卓で向かい合った彼は
死んでいるし有名な詩人だったから
言葉の純度が高すぎて
おしゃべりする口元は水銀にまみれている
7
毛布のように電子端末の微弱な電波を
引き寄せてはじめて安心するあなたは
8
飲めない珈琲を淹れて誰かを想う、午後三時のおやつ。
9
ここ数日
綺麗な夕焼けが続いている
オーディオプレイヤーの再生ボタンが壊れて凹んでいる
10
断片的なメモを
繋いだような僕らの
関係性に生じる
空白を抜けてゆく青い蝶
渦巻く舌に開けられない鍵はない