キセキヲデル 来住野恵子
しろく燃え立つ
キアゲハが一匹
風の扉をあけ
甘さも苦さも弾き飛ばして
花木立から舞い逃れる
遠く鳴りわたる氷雲
まひるの月欠けて羅針盤がぐにゃりと曲がる
鬼神の義憤は
炎暑のアスファルトを突き通し
いちずに
きららかに立ち昇るから
落ちたばかりの漆黒の尾羽を拾い
滑る雲の
光の縁取りをユラユラなぞった
おさない闇は
貴石のようにごろんと転がる
〈・・・・横道なきものを。〉*
直進しない光がするどく屈折しながら縫いつづる
綻んだ沈黙を
ゆるく歩き出す
ほのかな熱の染む
泥の異名を聴いている
*〈・・・・横道なきものを。〉
「情けなしと客僧達、偽りあらじといひつるに、
鬼神に横道なきものを。」(謡曲「大江山」より)