すがた 岡本啓
あらわれると同時に消えかかる
ことばとか息みたいだ
葉がおおきくゆれて
ふるえているのはキツネの耳
するどく動く耳が
字幕のように
キツネでいることを知らせている
ぼくはみたない
ぶらさがるトマトにみたない
ツヤツヤのひかりにみたない
ついばむ鳥にみたない
やわらかに粘るこのクモの糸にさえも
あらゆるものが
みたないなにかであるということ
岩に根をしみこませる
からからのトマトとその赤い実は
気が遠くなるほど
せかいそのもの
みたないままなおみちあふれたひとつぶ
やさしく拭いて
そうっと歯を当てる すごい
酸っぱい