(秋の眼の内側にうち寄せてくる) 山腰亮介
秋の眼の内側にうち寄せてくる
カーテンの隙間から
夜のてのひらが
雷鳴を摑まえている
桃の睫毛の手ざわりに
惑いながら
幾度も姿を変えてゆく
キャンドルホルダーに映る
ぬくもりが痛みを素描している
戸棚の上ではいまも
シリンダーの冬と焰の箱が拮抗している
毎晩 あかりを消したバスルームで
深く息を吐いては
四隅まで延した器官が感応する
有蹄類の群が秋にむけて成熟させた
樹木という樹木の枝のさき
どこか遠くで
土踏まずに嚙みつく道路
公園を通過する
急行電車から漏れるまなざし
あの日の電燈のオレンジ
あかりの岸辺から岸辺へと
流れていった季節の堆積
こまやかなクオーツへと凝結する
寸前の液体が
咽喉の奥の放電を軸とした
螺旋となり
目覚めない朝にはささくれた
桃のくちびるがころがっている