ラメ 来住野恵子
どしゃぶりの雨
午前十時
運び込んだものは運び出される
睦月あけて雪崩れるそばから凍りつく
香らない墓標には
皿ならそのまま砕ける
まっさらな沈黙が大洋のうねりを刻んでいる
常緑の
モミの葉が鋭い針となって落ちてくる
秒針 私信 釘打ちした天国も扉からうっすら血を滲ませて
白壁に
いきなり出航の謂だ
鏡の水位は上昇し
すがおを留めた真冬が
息せき切って外階段を駆け下りる
行く先は知らない
たずねることもしない
紙箱の棺 放たれた羊の群を縫って
時ならぬ晩鐘がふるえる
赤錆びた鉄の踏み板と
雨に吸われていく記憶の爪先
あたかも人魚が置き去りにしたそれら朽ち損ねた歌の
中空航海日誌
何もなくなった部屋の隅に粒々ひかる
神話の残照をつまびいて
ありし日の肉の記号をそらんじる
ウーラヌスの夢想の物質
〈星散りばめたる〉心にこそあらめ
雲母の波頭立つ
早春のパリの空さながら
止まず剥離する無数のラララ切片をすくって
まだ温もりののこる
鳥だったか音符なのか
老婆がいつも往来を眺めていた
向かいの窓は閉じられて
映り込んだ解体現場
幾筋もの水の刃がガラスを這う
切れず切らずただ光へと身をよじって
神ヲ通シテノミ出逢フ
いたいけな日のクリスマスの箔 吹き溜まる
あれも港なら
断念と祈念のへりで炸裂する
無の
銀河が錨を下ろす冬空の桟橋へ
わけて十年
宇宙の瞳孔がひらく
さよならの速度を破る