もしくは貝殻追放   来住野恵子

319

もしくは貝殻追放   来住野恵子

古代のぼやけた鏡ごし
白銀の海が瞬いている
陸地に寄る辺はないから
ホーホー
明けても暮れても水のうえ
〈阿呆船〉よろしく
あどけない狂気とともに
あてどなく運ばれてゆく

時空の折り皺がざわめいて
錐刺すいたみが
鎌首をもたげてくる
切り込まれたといっても文字にすぎない
創なら先んじて手放して
やがて形成される真珠層の
ひかりの肌理にらららるうらら
万物流転パンタ・レイの音階を
刷新すればいい

 ・・・わたしのみはかいのから、
  七つの海が懐いている。
名を刻んだ陶片なら
忘れ去ったころにも出土するが
寵愛千年のしるしは
瞼の雲のうら
まんまるい虹のように浮かんで
天地を結ぶのだ

さすらいの水の胎より
こんこんとひらかれる
異形の翼がふいごとなり
 ねぇ なんのおはなし?
ホッホー
笑い飛ばせば
岩礁も残照も跳ね返す
しろい波間に自由の鱗が見え隠れしている

こんがらかった闇の藻屑を掃って
吹き通う
風の根から吸い上げる
ときをえたり
いちばんのりで脱落する
ガラスの猛禽が
朗々と
裏後光の鍵盤を泳いでゆく

タグ:

      

Leave a Reply



© 2009 詩客 SHIKAKU – 詩歌梁山泊 ~ 三詩型交流企画 公式サイト. All Rights Reserved.

This blog is powered by Wordpress