(豹の瞳光が月の匂いを注視している)   山腰亮介

0507

(豹の瞳光が月の匂いを注視している)   山腰亮介

豹の瞳光どうこうが月の匂いを注視している
ショーウィンドウに四肢の光脈こうみゃくが拡がり
幾百の花びらと花びらのあいだを駆け抜けて
唸りながら
全身の紋様のなかに棲む
深遠な蒼たちの常闇とこやみが世界の脈動へと波及する
ここではない
夜々のビルたちの真っ赤な呼吸を
沈黙した瑪瑙めのうのながれる水面を
街々の屋根でこごえる音階を
鉱石たちの眠りの爆ぜる線路を辿った
遠く 彼方のベランダで
クレマティスの蕾が放電している
いくつもの深紅の春をふるわせながら
次第に堆肥へとうつろう
牡鹿のあしおとを追いかけて
頭骨を貫き
樹々に蝟集いしゅうする
夜露がハウリングして
山の奥から旋回する曙光の息吹が降りてくる
大気をただよう深緑の毛髪のなかを
見え隠れする
鬼胡桃、黒スグリ、クロッカスに秘められた
視線が幾重にも交差し
雷鳴の脈搏と融和して
光子のなかを縦横に飛びまわる
豹の紋様でうごめく水晶体に
あらたな季節を狩猟する瞳光の透徹が飽和している

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