予後   亜久津歩

0514

予後   亜久津歩

あとがきのようにのどかな昼下がり
みなわすれてしまったから
おぼえていたことをはなそう
初めからなかったような
いつかなくした栞について

帆翔する鳥のように
万緑のさざなみに肩をひらくと
いたくないほどゆっくり轢いていく雲の影
同じ呼吸をすれちがいながら
ふたつの夏がもえている

まぶた越しに享けるひざしを
躊躇いがさえぎった
いつまでくるしめればよいのだろう
白詰草の花冠を編んでくれた
てのひらはふるえていて

すくおうとするたびすりぬけた
そのさきに標べはなくて
川面はめらめらと乱反射をたたえる
霞むビル群よりもつめたいまま
きれいだよとくれるものをほしくない

 (ねえ、たのしかったよね
  生傷みたいな
  まわり道も

   (もうくるしめなくてくるしい

       (

かなしいほどしあわせなふつうの今
翻るページに
誰がいないか思い出せない

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