予後 亜久津歩
あとがきのようにのどかな昼下がり
みなわすれてしまったから
おぼえていたことをはなそう
初めからなかったような
いつかなくした栞について
帆翔する鳥のように
万緑のさざなみに肩をひらくと
いたくないほどゆっくり轢いていく雲の影
同じ呼吸をすれちがいながら
ふたつの夏がもえている
まぶた越しに享けるひざしを
躊躇いがさえぎった
いつまでくるしめればよいのだろう
白詰草の花冠を編んでくれた
てのひらはふるえていて
すくおうとするたびすりぬけた
そのさきに標べはなくて
川面はめらめらと乱反射をたたえる
霞むビル群よりもつめたいまま
きれいだよとくれるものをほしくない
(ねえ、たのしかったよね
生傷みたいな
まわり道も
(もうくるしめなくてくるしい
(
かなしいほどしあわせなふつうの今
翻るページに
誰がいないか思い出せない