螺旋形の歌 望月遊馬
水門へ寄り添う陽光の匂いは少年の複雑をかきとめてはまた湖水へ投げるその
方角の歓びでもあり琉球王朝へと流された老爺あるいは地形図のなかの少年の
影がきらびやかに歌われる水門の朝でもあったのでわたしは賑わう模型に手を
とりつけて脚を外した人体の交響楽であり抽象絵画のかたわれの双子、貝殻の
家屋のようなかたちをした窓、とりついた巻貝にすすんでゆく夜、もうすこし
で脱皮するだろう夫人、その乳房から鎖骨にかけてのホ長調「おまえがおまえ
の洪水を胸いっぱいに流されてゆくだろう日を俺は俺の背丈いっぱいに生い茂
ったセイタカアワダチソウ君は君の矜持いっぱいに守られてきたひとりの少女
そのようにして朝を終えるだろうひとりの老爺」だとして境界線としてあった
国境にたかる蟻たちの匂いたつ花園へ君は手をのばして、展開されてゆく音楽
の対位法のような三声に歌われる君は君だ。
このようにして
朝のやり場のない
船着場にはたつ
影のようにしてえのころ草は
君の君だ
かえりみて
背のむこうの
おまえはおまえだ