からすのえんどう 斎藤恵子
川辺を歩く
土手にはからすのえんどう
ちいさな紅の花
ノノノノノ
さやのかたち
川は雲を浮かべ
雲間に沈む
ことばたちの上を流れ
わたしのなかを通り
ト音記号のつるをつたい
うす色の空へとのぼる
無残に過ごしたとはもう思うまい
下から黒くなったさやの実が弾け
世界の遠くねじれて
なつかしい烈しさを撒く
裏切られたことばが
川溶け込んでいて
ときおり堰になって滞り
不意のひとすじの急流に
憤りの飛沫があがる
遇わないひとたちは
みんな元気だろうか
蜜色のひかりが満ち
はじまりの合図のように
爆ぜる