入り江の眼差し 駒ヶ嶺朋乎
その穏やかな風の起点に立つと
入り江をひろく見渡すことができる。
入り江には浜はなく
岩場がある。
半螺旋のような、輪切りの巻貝のような
美しい自然の勾配を下ると
岩場に着く。
凪が波音を今は鎮め、
岩場は生き物の作り出す温かい囁きで満ちる。
イソギンチャクや小さなカニが作り出す泡沫のはじける音。
磯の音を深く呼吸してみると
かすかに塩の味がする。
厳しくも優しい海に揺籃されていると
今は思う。
入り江を縁取る稜線の途絶えた先、
じっとして、そこに星が。
美しいと言ってよかった。
星は、旋回するトビの瞳だ。
私の目を見て旋回する。
自信があるんだな。
捕食者である自信。
私の目を見る。
旋回する。
目を見る。
旋回しながら
目を見る。
羽先を震わせもせず。
鋭い。眼差し。潮の香りのする。
――能登島にて。