野分 ― 2020 秋 小﨑 ひろ子
酷く暑い夏の終わり
野分の風に薔薇は揺れて
どうしてこんなふうに
風の音が鳴る?)
虎落笛の音がやまない
かつて皆できいたビル風
(ね、きいたよね?
みんなで一緒に
中野での話です
あのビルももうすぐ
壊されるのですって
虎落笛の音がやまない
季節のものだから
別に変なものではない
まあペットボトルのお茶でも
列車の音がする
台風が近づいているが
列車はいつも通り動いているから
仕事に出かける
それにしても
虎落笛の音がやまない
野分の後のビル風
季節のものだから
別に変なものではない
なまえは変だけど
ほんとに変な名前の風だ
(だから季語にもなるんだな)
森の奥のレストランでは
デザートに蜂のお料理が出されて
お料理の話です
知らず食べてしまってもとても
おいしいんです
薔薇は野分の風に揺れている
草と同じ色の葉を持つくせに
薔薇は花の王者だ
虎落笛と薔薇
変な組み合わせ
例えるべきなにものもなくなっても
薔薇は王者として揺れている