「食」「歳差」 岡 英里奈
食
はじめをいつも忘れるが
灰色の肉をつつきあって
ともに食したので
もう最後までいったと等しい
たいらげたものが自分から出て
それをあなたが食べる
いつまでもめぐりあう
わたしたちは食卓に並ぶ
さかな、たまごなまたまご、ねぎ、みょうが、さつまいも、ばらん、菊、わたし
食べられたわたしが
どこかの排水溝につまるころも
星はまたたいている
歳差
車輪が血痕を過ぎる
人と人の間で滲み出す汗は
屋上に靴を片方残して飛んだ跡
背中を丸めてワンルームの壁にもたれ
隣人の背中を想像したアパートが 焼失した日の
星の位置を不詳と記した
未来の歳差のため
ここから放棄しておくこと
花として垂直に立ち
肩凝りも忘れて
山火事にも狼狽しないで捜索する、北
青赤二匹の防寒着が通過、手をつなぐためか毛糸の手袋を故意に落とした青いほうの手が星座の一つだったと、思い出さないまま一生を終える赤いほう
何色かも知らず
水の蒸発さえ傍観して
次の形を待った花(火は血よりぬるいと思い違えたまま)
方角がわからなくなって、無私のかわりに土色となる
子供の頃、フェンス越しに見た錆びた列車と海底で再会したとき、枯れた花が、崩れる、乾いた、かわいい、音が、鳴る