拔辨天 閒村俊一
三・一一以降
三陸はかなしかりけり蜆掘る
この世はも大蛤の見し夢か
貌ばかり流されゆくや夏の月
靑簾越しにこの世にあらざるもの
憂し夜はしろきぼうたんひとつ吐く
喉鳴らす猫とをんなと夏の風邪
萬綠やあの日の父を尾行する
東直子『耳うらの星』装訂
けふくちなはのもりにいつたよママン
虹三句
さうあれは虹の懸かりし午後のこと
括りたる小ぶりの虹の二三本
虹植ゑて戻りて來しが病みつきぬ
口吸へば魚臭きや晝花火
書物にもノドあり氷水が好き
曲がり來てげに恐ろしき金魚賈り
うを呑みてうを吐くあはれ鵜といふは
わちきかえ、わちきは
拔辨天裏の螢でありんした
*
かの世にも昇りし月と思ふべし
星合の鈴鳴る川を渡り來よ