エデン   岡野絵里子

エデン   岡野絵里子

 そんな風に 暖かく掌を広げたことがあった と 夕雨にひらか
れる傘を見上げ 古い時間を探すうち 濡れた歩道に影を踏んで
靴は帰って行った
 
 角を曲がれば 聖堂は灰色の石 重い扉が旋律をこぼし 再び閉
じられる 「エデン・・・・」 一瞬の歌声が前庭の梢を抜け 昇
って 消えた それはかつて楽園のあった場所の名 あるいは夢の
 
(果実が落ちる)
(もう誰にも悲しみを読まれないように)
(赤く)
(封印されたまま)
 
 もがれたように 人々はここにいる 一日の勤めを終えて 歩い
ている やがて列車に詰め込まれ それぞれの小さな木箱に戻され
るだろう
 
 だが ゆっくり休むのはもっと後 甘い汁を抱いて 一人のまぶ
たを閉じるのは
 
 雑踏の中に 遠ざかる一人の靴音を聴き分ける時 道は遠く伸び
る 乾いて荒れた平原の 東の彼方まで やがて訪れる長い休息と
同じ名前の その場所まで
 
(呼ばれたので)
(人となった)
(閉じられたので)
(永遠に続く)
 
 その場所まで

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