おくら納豆 鯨井可菜子
この夏に死なぬ約束コンビニのおくら納豆ねばねば蕎麦と
温泉に足つけたまま撮影のさなかにも出る携帯電話
ついて行くと駄々をこねたる一抱えの校正紙ありて鞄に入れる
ぺらぺらのチケットで飛ぶ夏の日の眼下に小さき志賀島あり
大倉山駅に降りればにんにくの山と売られき西陽のなかに
きまじめに文語の歌を作ってはまた文法を間違っている
代休のうしろめたさが帰り際の羽田にかろき菓子を買わせて
従順なわれら憎みて地下鉄のエスカレーターに吹き下ろす風
代休の前の徹夜と代休の後の徹夜に流星雨あれ
熱を病みながら働く筐体にFAX用紙の吸われてゆきぬ
作者紹介
- 鯨井可菜子(くじらい・かなこ)
1984年生まれ。福岡県在住。会社員。
2009年「かばん」入会、2011年「星座」入会。