ハバネロの実 水上芙季
町はづれ小鳥屋さんの横に立つポストへ歌を落とす雨の夜
君からの連絡こない夕つ方をととひの君しか獲得できず
珍しく定時上がりで飲みに行くメキシコ料理店〈エルアルボル〉へ
「髪(パツ)金(キン)で英語しゃべれる子が好い」とテキーラ飲みほし年下は言ふ
ナス目ナス科トウガラシ属シネンセ種ハバネロの実がわが舌を刺す
ハバネロ入りテキーラ回し飲む今宵 長寿の秘訣知りたくないね
総務課に知らない人の声満ちて自分の声をじよじよに忘れる
〈待ち人は支障があって来ないです〉ふたご座われの五月の運勢
家のかぎ以外は持たず川に来て水底に揺れる石を見てをり
鍋のなか鶏肉ねむる休日はたつぷり独りだ夕明りして
押し寄せる塩分濃度高き予感 もうすぐ君はゑんぱうに去る
失ふは君だけでなく音楽と聴いて交はした言葉たちだよ
平日のディズニーシーへ行くことを思ひつつ会議資料コピーす
送別会課(か)でいちばんに書く色紙とむらひ扇のごときしろさよ
昔よく母に言はれし〈手暗がり〉楡の木下で思ひだしたり
作者紹介
- 水上芙季(みなかみ ふき)
2005年 コスモス短歌会入会。2008年 同人誌「棧橋」入会。