Spoken, Written and Printed 西藤定
待ち合わす大手町駅ありえない方から風が実際に吹く
「おい、じじい」ときみは呼びくる藤色のUSBを差し出しながら
添え状の書式がすこし雑になるでも封筒にすんと収まる
革靴の甲でけちらす枯れ松葉 浜辺へつづく道から降りて
自立する書類カバンに買い替えて公衆トイレでそこを見ていた
すべった自己紹介みたいに咲いているアロエは雪の真昼の庭に
肛門のわずか手前にさびしさが詰まってそして肛門を切る
せきれいの尾のしずけさに五線紙へ定規を当てつきみの右手は
ピーラーにジャガイモの皮ついたまま朝日はふかくキッチンを突く
きみが善いことをしたからにんべんのなかのなかむらさんからはがき
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読むために書くのだろうか履歴書の性別欄を初めに埋めて
買いたいと思ったらもう買っているおはぎ、おはぎは米の惑星
できるなら私兵が欲しい 十二基のエレベーターを外から見上げ
間に合わせに買ったシャーペンすべすべとマークシートの縦糸を織る
花がありすぎて花屋と気づかない菊のようだよ控室にて
間がわるく手で押し返す自動ドアその手応えで「やれます」と言う
経済の換喩ではなく牛丼で、それがおいしい面接帰り
書かれない歴史のことを熱く言うきみに蓮池の柳が似合う
花びらが流れてきてもこれは濠、あなたが見たいのは神田川
(「未来」2016年8月号、2016年9月号、2016年12月号より、その他未発表三首)
西藤定(さいとうさだめ)
平成四年生まれ、神奈川県在住。
二〇一四年八月作歌開始、二〇一四年十一月「未来」入会(黒瀬珂瀾欄)。
二〇一五年四月から二〇一七年三月まで東京大学本郷短歌会に所属。