雲行き、列車
晴れた日に全ての音が出なくなり指のみ奏でゐるふりをせり
あをぞらに消え入りたくてできなくてゐるうち空が曇つて目立つ
かき暗み風の吹き交ふ時の
パツキヤマラドパオパオパパパ抱へたる
顔あぐる人の瞳の驟雨過ぎぬめぬめと照る朴の葉おもて
まぶしいといふほどでないゆふぞらのつよくおほきなかがやきを見る
勝ち負けの定義を知らず「負けない」と言ひ切る人の衿を吹く風
乗客の総意の叶ひ閉まりたる列車のドアに身を預けゆく
フルサトに帰る列車ぢやない、これは。気付けるときに踏み切りを過ぐ
遮断機の向かうがはにて見上げゐし少年のかほ暫しを消えず
しばらくをみんなと同じ方へ行く。名前を知らぬ駅が近づく
つきかげのなかにはなれて浮く雲の意味のないそれぞれの奥行き
遠く蹴るたつた一つの球が夜すべての人の足元に着く
作者紹介
- 佐藤陽介(さとうようすけ)
1976年生まれ。『NHK短歌』への投稿ののち、〈塔〉に入会。合同歌集『366日目』に参加。