全国のポストの数や冬に入る 森田智子
子供の頃から親に連れられ、通い慣れている百貨店。
その階段の踊り場に「公衆電話撤去のお知らせ」、そんな張り紙がしてあった。
この大きな百貨店も既に公衆電話は1階各角の2機だけになったのだという。
気にもしていなかったはずなのに、武骨な薄桃色のダイヤル式や、テレホンカード型のアナログ電話機など、奇数の踊り場の公衆電話コーナーを忽ちに思い出した自分に少し驚く。
確かに、あの頃の都会の子供たちは公衆電話の場所を覚えておくのは大切なことだと知っていた。
私も小学生の頃、毎日一時間前後の通学時間に乗り継ぎ駅と最寄駅から掛ける「かえるコール」が義務だったことを覚えている。
だが、今やその駅の電話機も見当たらない。
全国のポストの数や冬に入る
贈答品の御礼、また年賀状さえもメールが主流になりつつある時代、またコンビニエンスストアに簡易型のポストが設置される時代、郵政民営化の後、過疎地のポストなどのコストも随分と問題視されてきた。
あと数年でポストも「絶滅危惧種」になるだろう。
啓蟄の鞄の中に電話鳴る
公衆電話もポストも日常に無い生活、味気ないがこれも致し方がない移り変わり。
知る者ができることは、それを形に残すことだけだ。
- 森田智子句集『定景』(平成24年 邑書林)所収