麺麭とシリウス 島なおみ

  • 投稿日:2012年12月07日
  • カテゴリー:短歌


麺麭(パン)とシリウス

犬が死ぬ話ではじまる莫言をわが黒犬にかくれ読む夜

南面の窓にざわつく気配して人臭きまで星群れており

ジュピターを冬田の水が映すことメガロポリスに打電するべし

ロボットかウサギがいれば懐かしい鴨沢祐仁みたいな夜だ

星月夜 ポムポムと咲く花びらのあかりのもとに人は寄り添う

木の卓に置かれた麺麭(パン)を右指で割る右指の祭礼として

階段の途中で振り向くオリオンにふかく(もた)れていい夜がある

スープ炊く湯気高ければ族長の妻めくひとと今宵逢わざり

砂塵吹く平原の夜をきみは言い樹叢の谷の夜をわれは言う

モニターに満ちゆく月の引力に寄せられている体内のみず

酒焼けのような赤さで燃えていま闇に沈めりベテルギウスは

ガスの輪が青くつらなるつかの間にとなり町からせんそうが来る

二十一世紀の冷気宿しつつ無慈悲な星の物語せよ

湿りたる鼻で押すドアまず犬がそれからきみが消えるくらがり

素粒子になって待つから犬星(シリウス)にただ消灯の安らぎはあれ

作者紹介

  • 島なおみ(しま なおみ)

2000年より故・辺見じゅんより手ほどきを受け短歌をつくりはじめる。2012年3月まで辺見じゅん創刊「弦」編集委員。
以後退会し、同年11月より未来短歌会会員。富山県富山市在住。地元で「エペの会」を運営。
ブログ「ウラシマミミガイ備忘録」

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