犬が死ぬ話ではじまる莫言をわが黒犬にかくれ読む夜
南面の窓にざわつく気配して人臭きまで星群れており
ジュピターを冬田の水が映すことメガロポリスに打電するべし
ロボットかウサギがいれば懐かしい鴨沢祐仁みたいな夜だ
星月夜 ポムポムと咲く花びらのあかりのもとに人は寄り添う
木の卓に置かれた
階段の途中で振り向くオリオンにふかく
スープ炊く湯気高ければ族長の妻めくひとと今宵逢わざり
砂塵吹く平原の夜をきみは言い樹叢の谷の夜をわれは言う
モニターに満ちゆく月の引力に寄せられている体内のみず
酒焼けのような赤さで燃えていま闇に沈めりベテルギウスは
ガスの輪が青くつらなるつかの間にとなり町からせんそうが来る
二十一世紀の冷気宿しつつ無慈悲な星の物語せよ
湿りたる鼻で押すドアまず犬がそれからきみが消えるくらがり
素粒子になって待つから
作者紹介
- 島なおみ(しま なおみ)
2000年より故・辺見じゅんより手ほどきを受け短歌をつくりはじめる。2012年3月まで辺見じゅん創刊「弦」編集委員。
以後退会し、同年11月より未来短歌会会員。富山県富山市在住。地元で「エペの会」を運営。
ブログ「ウラシマミミガイ備忘録」