ふたりをひとりを
井の頭 秋の日射して手をくぐりももに至れりわかもののもも
先の世で寵愛したという青年が家に来て寝る陽をあびながら
雲ながれ月かげさすときほのかにもこころはれゆき恋わたるかも
九字切れば闇の破れてひかり満つる部屋かがやきてたちたる香り
参道の風カフェに入りきて花をゆらしぬ水吸う花を
陽をあびて茂る大樹の根を張れば岩を砕きて雨を吸いたり
ともしびはゆれつつあはれテーブルにゆれつつ照らすふたりをひとりを
隠したる思いを変えてやわらかく責めたる人の黒く燃ゆる火
大晦日。美輪明宏が降臨しすべてひれ伏す光のなかで
忘れめや雪の参道六人でさわぎ走りぬ雪の深夜を
作者紹介
- 中村幸一(なかむら こういち)
短歌結社「熾」編集委員。歌集に『しあわせな歌』(北冬舎)、『出日本記』(北冬舎)。