破地獄弾 竹岡一郎
然し地獄なんか見やしない。花を見るだけだ。
坂口安吾「教祖の文学」
坂口安吾「教祖の文学」
みなぎつて地獄を開く貝柱
涅槃絵を囲みて地獄萌えはじむ
涅槃絵に顫へ地獄の育ちなる
はばたきの煙る地獄を蜷の道
累代の地獄沁みゐて雛澄むや
薇の渦は無間を沈思せる
弔砲や地獄に蝶の降りつぐ朝
鬼
夭(わか)</rubyく帰雁の影を掬びけり
深閑と地獄を浸す野蒜の香
鷽鳴けば地獄のひかり正史定め
牛頭馬頭の託したるこの白椿
茎立や廃市に斃れ偉人像
たまの緒を鬼あざなへる初音かな
地獄ではモダンガールが今すみれ
蚕かなたの釜の奈落へ食ひ進む
桑地獄遂はれて捨蚕拉がるる
鞦韆のたゆたふ地獄暮れなづむ
孕猫地獄の町の虹溜
虹巻くは地獄ひじりが青き踏む
わたしの中で犇めく氷や火や囀り
松露掻く身ぬちの奈落こぼさぬやう
若布殖え人類ぱつと散る平日
地獄花時みな天獄へ攀ぢしのち
まなこ涸れ割れて落花の無間かな
桜湯や道行となるめぐりあひ
壺焼の地獄分けあふ二人かな
火に透きて奈落遊びの花衣
さくら責む鶴の尾羽で幹くすぐり
あな淡し奈落呑み干し花と化し
亀鳴けるほかはしづもる地獄かな
天の獄雲雀けらくの阿鼻叫喚
地獄つらぬく弾は地獄の色や春