東京の帰宅難民その中に夫と息子の足音がある
池田はるみ「帰宅難民」 「短歌」五月号
帰宅難民というのも、被害者のジャンルに入るだろう。作者は都内在住だが、夫と息子は、勤め先からの帰宅の足を奪われて、かなりの距離を徒歩で帰って来たのかもしれない。ほとんどの学校や大きな企業では、首都圏直下型の大地震で、電車や高速道路がつかえない場合の訓練をしているはずだ。ただ、本当にこうなるのだと、身に沁みたのは三月十一日だろう。筆者は比較的職住接近であり、歩いた時間は一時間半足らずだったが、五時間、六時間以上歩かなければならなかった人はいくらでもいるだろう。この一首のなかで、池田はるみは、家でテレビの惨状を見ながら、家族の帰宅を待っている。足音が聞こえるたびに、「あっ!帰ってきた」という思いがむなしく繰り返される。
地面にはミミズがたくさん這ひ出でぬ大き地震の過ぎたるあとに
あちこちで泥噴き上げてゐたりけり液状化現象わが家の周り
こういう歌も、微細な発見を短歌に定着していることで価値がある。こういう現象との出会いも、まぎれもなく機会詩なのである。
作者紹介
池田はるみ・昭和23年生れ・「未来」所属