六十五番 大○やすひろ
左勝
落葉踏むやさしき地球の肌触り 大輪靖宏
右
草の絮地球一周するつもり 大関靖博
年末に大関靖博さんから『五十年』という句集を頂戴した。交流はないが、なんとなくお名前の字面に見覚えがあって、二〇〇七年の「俳句」誌で、筑紫磐井、櫂未知子と合評鼎談をしていた方ではなかったかしらんと思って拝読した。しかし、句を読んでみるとどうもその人とは違うような気がしてきた。
たまたま二〇〇七年に当方は「俳句」に作品を掲載させていただいたことがあり、合評鼎談の俎上にも乗っていた。それは曾我物語を俳句化した晦渋な連作で、その人は拙作に戸惑いこそすれ褒めてくれたわけではないが、発言からすると曾我物語の内容に精通していることはあきらかだった。『五十年』を読むと、鼎談から受けた印象とは異なる感触を覚えた。なんだかすっきりしなかったが、調べることもしなかった。
そうすると不思議なもので、年が明けて今度は『大輪靖宏句集』という御本の恵投に与った。ああそうだった、大関さんではなく大輪さんであったと勘違いに気づいた。作品もであるが、「あとがき」を拝読するといろいろ腑に落ちる点があった。
掲出両句は「地球」という語が出てくる句で揃えてみた。右句の方は句集の帯にも抜かれているから自讃句であろう。微笑ましい童心の句であるが、誇張がやや空転しているきらいがある。擬人法の卑俗さも気になる。左句も必ずしも洗練された詠み口ではないものの、落葉を踏んだ感触を「地球の肌触り」とするのは、同じ誇張でも厭味が少ないだろう。「やさしき」も言い過ぎなのだが、それを承知でこう述べてしまった心事に共感はできる。左勝。
季語 左=落葉(冬)/右=草の絮(秋)
作者紹介
- 大輪靖宏(おおわ・やすひろ)
一九三六年生まれ。著書に『上田秋成文学の研究』『芭蕉俳句の試み』など。掲句は、第三句集『大輪靖宏句集』(二〇一一年 日本伝統俳句協会)より。
- 大関靖博(おおぜき・やすひろ)
一九四八年生まれ。水原秋桜子、能村登四郎、福永耕二に師事。掲句は、第四句集『五十年』(二〇一一年 ふらんす堂)より。