人とわかちあえる孤独をいかにしてつくるのか。
この問いに答えをくれた詩人は少ない。そして答えはすべて同じだった。
それは前に行ってしまうことだ。
実は昨年「私の好きな詩人」の第二回の依頼を頂いていた。そのときは詩人の名前が頭の中に浮んでは、これは好きなのだろうか、と思って消えて、原稿の掲載日といっしょに消えた。
突き放すエリザベス・ビショップ。30年を超えるシルヴィア・プラスの喪に服すテッド・ヒューズ。死にゆく氷見敦子。そして吉原幸子。
時間にながされながら振り向く歴史の天使の風貌をした作品だけが僕を詩に向かわせてくれた。
好き、とか嫌いとかの話ではなかった
今回の依頼を頂いてからこれだけのことを1年2ヶ月考えて、紹介したいと思ったのはともちゃん9さいの「ビーバップ・みのるとわたし」。
「ビーバップ・みのるとわたし」はAVを題材にとった作品。監督兼男優のビーバップ・みのるとAV女優の大沢佑香(彼女は「照沼ファリーザ」名義でGEISAIでリリー・フランキー賞を受賞している)の会話と、その会話を見る語り手の会話を挟み込む抒情というより感傷でできている。
ビーバップ・みのる(以下ビ) でもね、この俺の◎◎ついたさ、
このカツサンドさ、誰も食ってくんないと思うんだよ。
大沢佑香(以下、大) ん。
ビ でも食ってくれたら、俺が嬉しいの。
大 そっか。
ビ 大沢佑香だから俺は食ってほしい。
大 そっか。
ビ でも食えなかったらいいよ別に。
中略
大 そっか。
ビ それは自分で選べよ。
間
ビ カメラ見てろよ。
間
大 じゃ食べます。
ビ でかい声で言えよ。
大 食べます。
ビ 食べろよ。
このあと大沢佑香は「◎◎ついた」カツサンドを食べる。
きらいになった?ときかれて首を振る。
語り手は泣く。
泣きながら自分も他者も「これくらいの愛情表現を簡単に受け止めてほしい」とつづる。
これだけ。
「愛情」という言葉のぶきみさのために必要な言葉はこれだけで十分で、それきり語り手は自分の「へんたい」性について口をつぐむ。そして私も。
将来「◎◎」くらい簡単に食べれる程度に「愛情表現」がずれたら一瞬で崩れる世界なのは承知の上なのだけど、この生のまま差し出されている寂しさを私はどう受け取ればいいのだろう。
3年前に初めてともちゃんの朗読で聞いたあと、私は自分の「へんたい」性を重量として感じるようになり、そして自分ができうることの重みについて思いを馳せる。
ともちゃんの作品は、けっして前に行く、という趣旨ではないのだけど、生きてしまうことがえぐりだされている。そしてそれはビショップを読むのと同じようにゆかいなことではないのに、なぜかわたしを詩につなげとめてしまう。
残念ながらYoutubeなどで「ビーバップ・みのるとわたし」のパフォーマンスは見ることはできない。けれども、Youtubeで公開『ともちゃんはファンタジー』のなかで「ともちゃんはファンタジー」、と貫く彼女の声のさみしさの直線を感じていただけると事足りるような気がする。
追記:ともちゃん9さいのライブ予定が聞こえたので、掲載
2012/6/22(金) 『モノガタリズム』18時会場19時開演
場所:中野 無国籍食堂 カルマ
中野区中野5-32-9。
金額:2000円(D別)
予約制:03-3387-0602 または、ともちゃん9さい(@tomochan9sai )のTwitterへ。