丼にせつかくうどん満ちたるに箸が少しづつ引き抜いてゆく 村田一広
日経歌壇(2009年3月1日)に掲載された作品。こんなケッタイなうどんの歌は初めて見た。われらうどんは、せっかくこうして丼に集まったのに、無粋な箸がやってきては、何本かずつズルズルと引き抜いてゆくのだよ、つくづくこの世は無常であるよ、といううどんの嘆きが聞こえてきそうな一首である。
作者の村田一広さんは、新聞歌壇を主たる作品発表の場にしておられる方なのか、あるいは他の発表の場もお持ちなのか、詳しくは存じ上げないが、《木になりたき古人(いにしへびと)が杉となり千年佇(た)てば満ち足りてゐむ》(朝日歌壇2008年12月8日)、《ラーメン屋のテーブルを借り椅子を借り丼の中だけが僕のもの》(日経歌壇2010年4月4日)、《次の世は人と生まれて鴉など可愛がらむと鴉思(も)ふべし》(日経歌壇2010年7月11日)、《点滅するスクランブル交差点まなか名刺を交はすスーツとスーツ》(日経歌壇2011年7月10日)など、たびたびユニークな作品を紙上で拝見している。