日めくり詩歌 俳句 高山れおな (2012/04/11)

七十七番 自然を詠む、人間を詠む(十)

左勝

息あまた集まつてきし涅槃かな 石嶌岳

しづかなるいのちなりけり春の雪 石嶌岳

東京生まれ、東京在住の方なので、アンケートには直接的な震災への言及はありません。ただ、年初に観た能「翁」の天下泰平・国土平安を祈る文言や、豊穣の予祝が「今年はことさら心に沁みました」とのこと。

左句の下五の「涅槃かな」ですが、涅槃は本来は涅槃会の傍題ですので、「涅槃かな」も涅槃会を指すのが本当のように思われます。しかし、昨今は涅槃会が行なわれる時候を指す季語として「涅槃かな」と使っている句が増えているような気がしますが、私の勘違いでしょうか。この句は、「息あまた集まつてきし」ですから、涅槃会への人々の参集の様子と解するのが素直です。しかし、あるいは涅槃図を詠んだ句でもいいのでしょうし、行事の句ではなく上述のように時候の句として、何かの集まりを詠んだまでかも知れません。判断つきかねるところがありますが、とにかく大勢が集まることを息に注目したところが面白いです。

一方の右句は、あまりにも淡白で、流したような印象も受けます。おのずから左勝。

季語 左=涅槃(春)/右=春の雪(春)

作者紹介

  • 石嶌岳

一九五七年生まれ。「雪解」「琉」所属、「嘉祥」代表。

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