七十七番 自然を詠む、人間を詠む(十)
左勝
息あまた集まつてきし涅槃かな 石嶌岳
右
しづかなるいのちなりけり春の雪 石嶌岳
東京生まれ、東京在住の方なので、アンケートには直接的な震災への言及はありません。ただ、年初に観た能「翁」の天下泰平・国土平安を祈る文言や、豊穣の予祝が「今年はことさら心に沁みました」とのこと。
左句の下五の「涅槃かな」ですが、涅槃は本来は涅槃会の傍題ですので、「涅槃かな」も涅槃会を指すのが本当のように思われます。しかし、昨今は涅槃会が行なわれる時候を指す季語として「涅槃かな」と使っている句が増えているような気がしますが、私の勘違いでしょうか。この句は、「息あまた集まつてきし」ですから、涅槃会への人々の参集の様子と解するのが素直です。しかし、あるいは涅槃図を詠んだ句でもいいのでしょうし、行事の句ではなく上述のように時候の句として、何かの集まりを詠んだまでかも知れません。判断つきかねるところがありますが、とにかく大勢が集まることを息に注目したところが面白いです。
一方の右句は、あまりにも淡白で、流したような印象も受けます。おのずから左勝。
季語 左=涅槃(春)/右=春の雪(春)
作者紹介
- 石嶌岳
一九五七年生まれ。「雪解」「琉」所属、「嘉祥」代表。